「生きる」(2007年9月)

引き続き安田学園のテキスト「人間力をつける」についてです。
この本は「生命を考える」という章から始まります。
「どうして人の命には限りがあるのでしょう」という問いかけがあり、それに対する哲学センセイの回答という形で語られますが、問いに対する直接の回答はありません。
考えさせ、議論させ、思ったことを文章にまとめさせようと意図されたものです。

この第1章は映画「生きる」が例として取り上げられています。
先日TVでこの映画「生きる」のリメイク版が放映されたばかりで、ちょうどタイムリーな話題でした。
主人公は癌を宣告され、ファウストのようにこの世の快楽を求めてみますが、何か満たされない。
部下の若い女性が生き生き楽しそうに毎日を送っているのをうらやましく思い、その訳を聞いてみます。
そして生きてこなかった過去を取り返すかのように奮闘努力し始めます。
何物かを仕上げた満足げなあの顔!それがすべてを語っています。

テキスト「人間力をつける」では、「この世に何か自分の足跡を残したい、何か社会に役立ちたいと思い、公園づくりに奔走するのです。」と書かれていますが、TVドラマでは、残された時間を充実して生きたい、目標を見つけ、その目標に向かって死ぬときまで生き生きとしていたいという思いを強く感じました。

一昨年、私も兄を亡くしました。
大腸癌で5年を宣告され、その通りちょうど5年後に亡くなりました。
商社に勤め、海外勤務を経験し、リストラをする管理職に悩みながらも勤めあげ、最後には当時ほとんど知られていなかったバイオ燃料の部署を一人で立ち上げました。
最後までその新しい事業のことを考え、やれニューヨーク、やれシドニーだなどと、病院でもパソコンを持ち込み、眼を輝かせて私に語るのでした。
その生き生きした語り口を聞いていると、癌が治ってしまったのではないか、少し良い方向に向かっているのではないかと錯覚するほどでした。

自分のことを考えると人事ではありません。
いつ癌を宣告されるかもしれません。
その時、自暴自棄にならず、何か目標を見つけ、成し遂げることに熱中して生き生きと過ごしたいなあと心から思います。

生徒自身にとってはもちろん進路でしょうが、その進路は単なる大学名ではなく、自分が将来本当にしたいことを念頭に置いてほしいのです。
生徒たちに将来何したいと聞くと、「何もしたくない」と必ずだれかしらが答えます。
貧しくて物がなかった時代は、少しでもいい暮らしをしたいと頑張ったものですが、今の飽食の時代では何もしたくなくなるのです。

今を離れて将来に思いめぐらす想像力と深い会話が必要です。
後悔しない人生を送りたい。自分の本当にしたいことはどんなことで、それをするにはこうしたほうがいいと考えることが大切です。
後で変わってもいいのです。今の目標を定め、進路を決めて、頑張る。今を生き生きと過ごしてもらいたいですね。
安田学園のテキスト「人間力をつける」は、生徒だけでなく、教師や親、大人たちに深く考えさせる機会を与えてくれます。

Miyachi-Zemi

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