「人間力をつける」(2007年9月)

私立の各学校の入試説明会がこの秋から本格的に行われています。
来年度の入試の変更点や今年度の入試結果がどのようであったかを具体的に知ることができ、来年の入試に大いに役立てることができるのですが、私は特に各学校が学力をつけるためにどのような方法をとっているかに特に興味をもって聞いています。

先日は安田学園に行ってきましたが、系列の一般企業から来られた新校長先生が次の三つのことを実行されているとお話になりました。
すなわち①教育センターの充実、②教育相談室の充実、③「人間力をつける」ための教材開発というものです。

①で特徴的なことは、保護者が授業参観をいつでもできるようにしてアンケートを取り、それを授業、教員研修に役立てようとするものです。
ほかの私立学校でも生徒による授業アンケートを実施して、授業改善に努力している学校は多く、公立学校でも生徒・保護者アンケートを実施して授業に反映すると公立学校改善に役立つと思われます。
もっとも教員が忙しく、それを処理する作業をだれが行うかが問題で実現性は少ないようにも思われます。

感心したのは③の「人間力をつける」という道徳用の教材です。
小学校までは基本的な勉強習慣をつけることを主眼に、ある程度強制的に習慣を身につけさせることができますが、中学生以上になると勉強も高度になり、成長に伴う自立を目指す反発もあって強制が難しくなります。
つまり言われて勉強するようにはならないのです。
どうしても本人の気づきと内的動機が必要になるのです。
その自ら勉強しようとすることを促すために、成功者の逸話がこの本に集められました。
どのように生きていくべきかという根本の道徳を考えさせるようになっているのはもちろんのことです。
安田学園の創立者、安田善次郎氏の言葉やエピソードを中心に書かれています。
少し気になるところは、日本の根本的道徳心は物のない時代のもったいないという精神に拠っていて、今のような物のあふれる時代に育った子供たちにエピソードが感慨を持って伝えられるかというところです。

以前は、父親、母親から、あるいは祖父、祖母から、また地域の人から、人としてどのように生きるか、あるときは厳粛に、あるときは親子喧嘩、兄弟喧嘩をする中で伝えられましたが、忙しい現代ではそれが難しくなりました。
家族全員が食事の時間が違うとか、携帯電話、子供の部屋を持っているいうことに象徴されるように、家族がばらばらで会話もほとんどないという生徒も少なくはないようです。
人間として最も大事なことを学校が教えることもますます大事になってきていると思われます。

しかしだからと言って、学校や学習塾に道徳を教えてください、しつけをしてください、勉強させてくださいと丸投げするのはいけません。
子供と対話しながら、時には喧嘩し仲直りしながら、勉強や生活を通して人生の根本を伝えるのは、親の大事な勤めであり、親になるための大事な勉強であるからです。
「人間力をつける」の授業から、自分はこうなりたいからこの勉強をするという内的発動を持った人間を育てようという安田学園の試みは素晴らしいと思いました。

Miyachi-Zemi

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