認知心理学から見た学習(2004年8月)

今年も順天中学高校のセミナーが開かれ、貴重なお話をうかがいました。
今年は東京大学大学院教育学研究科教授の市川伸一氏の「学ぶ意欲とスキルを育てる」という題での講演でした。
認知心理学からの教育論。

まず、学力をどうとらえるか。
一般に考えられる【学力】とはテストで点数化できて測りやすい【知識や(狭義の)技能】であるが、測りにくい力として、【読解力、論述力、討論力、批判的思考力、問題解決力、追求力】が挙げられる。
これらは【学んだ力】としての学力であり、【学ぶ力】としてそれ以外に、【学習意欲、知的好奇心、学習計画力、学習方法、集中力、持続力、コミュニケーション力】が挙げられる。
これらも測りにくい。

以前の文部省は測りにくい学習意欲・知的好奇心などの底上げを図るために、「ゆとり教育」を初めとする教育改革を推進してきたが、皮肉なことにむしろ子供達の学ぶ意欲や学ぶ力こそが落ちてきてしまっている。
認知心理学の立場から学習ということをとらえてみると、[入力情報]→[記憶・思考(情報の保存・加工)]→[出力情報]という学習過程の中で、知識が内的リソースとしてインプット(理解)とアウトプット(表現)のどちらにも作用している。
知識がなければ、内容を理解し要約して蓄えることも、考えることも、表現することもできない。
「教えずに考えさせる授業」を主張する先生がいるが、生徒に基礎知識がないと考えさせることもできない。
むしろ基礎知識が今乏しくなって学力低下の一因となっているのではないか。
知識を蓄えるだけの「知識詰め込み教育」ではなく、知識を大切にしながら、それをどう活用させて学習活動を組み立ていくかを考えた「教えて考えさせる授業」か理想の授業であろう。

学校の先生は、授業で学習を完結させるべきだとの立場から、予習復習をさせるのは教師の負けとする考えがあり、予習はしないでほしいとする人が多い。
また家でも自主的に勉強する子を育てたいという考えから、宿題を一切出さない先生もいるが、親の働きかけがない場合や塾に通っていない場合、何をどう勉強したらよいかわからず、家庭学習の習慣やスキルがつかない生徒を多量に作る一因となっているのではないか。
学習法の改善という観点から、学校に学習法相談を設けたり、ホームページを作る学習などの目的行動を通して、必要感から基礎に降りて学ぶ方法など現在いろいろな試みがなされている。

学ぶということを通して、最終的には社会の中で生きていく力「人間力」をつけてほしい。
その柱として、職業生活、市民生活、文化生活がある。職業生活としては、どんな職業があり、それになるためにはどんな勉強をすればいいのかを学ぶ職業理解教育が必要。
市民生活を営むためには、他者の言葉を鵜呑みにするのではなく、自分なりに批判的に検討する批判的思考が 重要で、社会問題に関心を持つことやボランティア活動などを含めた社会活動への参加、賢い消費者になるための消費者教育も必要であろう。
文化生活の基礎としては、教科の学習から、学校を離れても自立的に学び続けられる学習スキルや、コミュニケーション・スキル、協同的問題解決の学習が必要とされる。

以上のような内容でした。
今まで考えていたものとはちょっと違った観点から見た教育論で、とても興味がわきました。
次に個々の問題点に関して考えてみたいと思います。

Miyachi-Zemi

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